本年は、1998年にカムチャツカ半島で掘削された全長212mの雪氷コアについて、酸素・水素安定同位体比分析および主要イオン分析を100mから150mまで進めることができた。また、海外共同研究者の一人であるHeinz Blatter教授(スイス国立工科大学気候学研究所)を平成13年11月10日〜17日の8日間招聘し、本コアが掘削されたクレーター氷河の動力学過程について、同人の開発した高次元の数値氷河モデルを利用して考察した。その結果、この氷河では、流動方向に沿った縦歪み偏差応力に大きな勾配があり、単純な層流近似の氷河モデルで予想されるような流れは生じず、流動速度も予想より遅いことがわかった。この影響は、コアの年代をより古くする方向にはたらき、コア中の安定同位体やイオンのシグナルに表れる年代との相互比較が今後の課題として浮き上がった。 一方、高次元の氷河モデルに与える初期条件として、氷河表面温度の算出に関する数値シミュレーションを海外共同研究者の一人であるAndrey N.Salamatin教授(ロシア、カザン州立大学)と共に実施した。氷河では、毎年降る雪によって、積雪表面が変化するため、氷体内の温度を推定するにあたって表面の境界条件を時間とともに変化させねばならない。我々のモデルでは、各深度の年間の雪温の時間変動を調和解析することにより、積雪表面の時間変動を間接的に推定し、これを用いて氷体内の温度の鉛直プロファイルを推定することに成功した。次年度は、このモデルと高次元の氷河モデルを結合し、より詳細なクレーター氷河の動力学を復元し、コアの正確な年代決定に役立てる予定である。
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