研究概要 |
中緯度対流圏のロスビー波を円現する従来の回転円筒水槽実験で、底から水深の20%にあたる高さにのみ半径方向に温度差を与え、さらに観測水の水面を暖めることで下層に対流圏にあたるロスビー波の流れ、上層に成層圏にあたるハドレー流の流れを作ることに成功した。本年度は、ドリフトする対流圏波動が成層圏への浸透によりどのような影響をもたらすかを基礎的に調べる実験をした。成層圏における流れの解析には、準地衡風的渦度方程式が使われるが、この方程式によれば、成層への波動の浸透は指数的に減衰し、減衰の速さは波数が大きいほど早い。第一に、これを検証する実験をし、極めて良い精度でこのことが成り立つことを確かめた(Tajima et al.,Exp. Fluidsに発表予定)。第二に、波数4について流速、内外壁の温度差などの詳細な観測をした。その結果、(1)成層へ浸透した波動流は、極側にあたる内壁が外壁よりも暖かくなるように半径方向の温度差を生成すること、(2)波動流の位相速度が平均水平流と一致する臨界層付近では、平均水平流の減衰が弱まること、(3)臨界層のすぐ上には回転方向と逆に流れ、臨界層の下の波動とは位置が半波長ずれた波動が表れること等を発見した(Tajima et al.,J.Atmos. Sci.に投稿中)。特に、(1)の結果は、結果的には、成層圏突然昇温と似た現象と言える。 これらの実験は、テキサス大学Center for Nonlinear Dynamicsの回転水槽実験グループを10日間訪問し、我々の実験について講演・議論し、準地衡風的渦度方程式に基づく数値解析をした。オックスフォード大学のRead教授を20日間訪問し、我々の実験に重要なベータ効果を取り入れた実験について議論すると共に、波動流の成層への浸透における臨界層での現象について議論し、上記(3)の結論を得た。韓国公州大学校自然科学大学大気科学科の蘇教授のグループを4日間訪間して、我々が計画している実験について講演し、共同実験を進める議論をした。
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