成層圏の大気現象は理論的に又は数値シミュレーションで調べられてきたが、より具体的にこれらの基礎となる力学的構造を知るには実験室での再現実験も有効である。本研究の目的は、従来の大気大循環を再現する回転円筒水槽実験において、回転円筒水槽の下層で対流圏に当たる波動流を生成し上層で成層圏に当たる安定成層を作り、波動流の上方への伝播を調べたり、成層圏周極渦に当たる密閉性の強い渦の生成を試みることである。我々は円筒水槽(水深13〜15cm)の底の厚さ3cmの層に半径方向の温度差を与えて波動流を生成し、水面を暖めることにより5cm以上の上層は温度が高さとともに上昇する安定成層を作ることに成功した。本年度は、上層における半径方向の内外壁の温度差、子午面の温度分布、円周方向の流速を測定した。その結果、半径方向の内外壁の温度差は下層で対流を生成するために加えた温度差とは反対で、温度は内壁で高く外壁で低い。円周方向の流速は上層で高さとともに減衰する。温度差と流速の高さ変化は温度風の関係にあることを、子午面の温度分布の測定によって正確に示した。また、水面を暖めないで上層を成層状態にしないと、下層の対流層には安定した軸対称流や波動流が生じないことを示した。これらの結果を総合すると、上層で半径方向の温度差が下層と反対になっているのは、温度風の関係から上層での流れが高さとともに減衰していることを示し、そのために下層の対流層で安定した軸対称流や傾圧波動が生成される。従って、下層の対流層で安定した軸対称流や傾注波動が生成されるためには、上層が強い成層状態になっていることが必要であることが示された。この結論を実際の大気に適用すると、オゾン層が紫外線を吸収して上層の大気が成層圏を作っていることが、対流圏に安定した大気循環が生成するために不可欠であることを意味する。成果は論文にまとめ、Journal of Atmospheric Scienceに投稿中である。
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