成層圏の大気現象は理論的に又は数値シミュレーションで調べられてきたが、より具体的にこれらの基礎となる力学的構造を知るには実験室での再現実験も有効である。本研究の目的は、従来の大気大循環を再現する回転円筒水槽実験において、回転円筒水槽の下層で対流圏に当たる波動流を生成し上層で成層圏に当たる安定成層を作り、波動流の上方への伝播を調べたり、成層圏周極渦に当たる密閉性の強い渦の生成を試みることである。我々は円筒水槽(水深13〜15cm)の底の厚さ3cmの層に半径方向の温度差を与えて波動流を生成し、水面を暖めることにより5cm以上の上層は温度が高さとともに上昇する安定成層を作ることに成功した。今回の科学研究費補助金による研究では、(1)下層の対流層で生成された傾圧波動の渦度は、準地衡風的渦度方程式に従い、上層の成層に指数的に減衰しながら浸透すること、(2)下層の対流層で安定した軸対称流や傾圧波動が生成されるためには、上層が強い成層状態になっていることが必要であることが示された。特に(2)の成果を実際の大気に適用すると、オゾン層が紫外線を吸収して上層の大気が成層圏を作っていることが、対流圏に安定した大気循環が生成するために不可欠であることを意味する。本研究課題の成果(1)については論文にまとめられ、Experiments in Fluidsに掲載決定され、成果(2)については、Journal of Atmospheric Scienceに投稿中である。
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