1991年のピナツボ火山噴火によって成層圏硫酸エアロゾル量が急増後徐々に減少していった事例について、気球観測による、火山噴火後に典型的な成層圏硫酸エアロゾルの粒径分布データ、レーザレーダによるエアロゾルの鉛直分布データ、衛星によるエアロゾルの光学的厚さのデータから、鉛直1次元光化学-放射結合モデルによるオゾン破壊の計算に必要な、エアロゾルの表面積の時間空間分布を算出した。この硫酸エアロゾルの表面積の時間空間分布を、鉛直1次元光化学-放射結合モデルに入力して、オゾンなどの大気微量成分濃度と気温の変動の計算を行った。その結果、増加した硫酸エアロゾル上での不均一反応によるオゾンの減少により、火山噴火後の成層圏気温の上昇は、微量成分濃度の変動よりも短期間で解消されることがわかった。また、対流圏の気温変動に関しては、火山爆発後約半年くらいまでは、増加した硫酸エアロゾルが地表に到達する太陽光を減衰させて対流圏気温の低下が起こり、それに続く約半年間で、エアロゾルによる赤外温室効果の増大によってこの気温低下が半分以上回復し、さらにその後は、成層圏下部のオゾン減少によって引き起こされた温室効果の縮小による対流圏気温の弱い低下が2〜3年間持続するという複雑な変動パターンを示すことがわかった。また、臭素系物質の、硫酸エアロゾル上での不均一反応を通してオゾン破壊に及ぼす影響は大きく、ピナツボ級の火山爆発の場合、オゾン破壊量は臭素系物質を全く考慮しない場合に比べて約2倍程度になることがわかった。
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