東京大学気候システムセンター/国立環境研究所で共同開発を行ってきた大循環化学モデルに、新たに硫黄系の物質(OCS、SO2、硫酸など)の光化学反応過程を導入した。このモデルでは、硫黄系の物質の源は、地表及び海面から放出されるOCSとSO2である。このモデルを8年積分して定常状態を作り、火山爆発などのない平穏時の大気中の硫黄系物質の3次元分布やその季節変動を調べた。計算によって得られた硫酸エアロゾルの表面積の分布は、これまでに観測された事実とよく合っているものが得られた。すなわち、エアロゾルの量の最も多い下部成層圏において、熱帯域では0.5μm^2程度、高緯度では1μm^2程度の表面積の値を再現できた。この現実的な硫酸エアロゾルの分布を再現するために重要な過程は、硫酸エアロゾルのwet depositionと、熱帯付近の強い対流活動によるSO_2の対流圏から成層圏への直接流入である。また、この硫酸エアロゾルの存在により、対流圏上部-成層圏下部の高度では、極域で数%以上のオゾン減少を、低中緯度では数%のオゾン増加を生じることが分かった。この低中緯度のオゾン増加は、エアロゾルの存在によってNO_x濃度が減少し、NO_xによるオゾン破壊が弱められたためだと考えられる。極域では、これよりも塩素の活性化が勝ってオゾン減少を生じたと考えられる。 鉛直1次元光化学-放射結合モデルによって、ピナツボ火山爆発時の下部成層圏の気温の変動を調べた。オゾンなどの大気化学成分の濃度を固定して、火山爆発によって増加したエアロゾルの純粋な放射効果を調べた数値実験と比較すると、光化学過程と放射結合過程の相互作用を考慮に入れたモデルでは、硫酸エアロゾル上で起こる不均一反応によるオゾン減少により、ピナツボ火山爆発後の気温の上昇は約1年早く解消されることがわかった。
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