まず、気候への影響が大きいとされる硫酸エアロゾルの影響について、鉛直1次元放射-光化学結合モデルを用いた計算を行った。この計算では、ライダーや気球による観測事実に基づいて、硫酸エアロゾルの粒径分布を仮定し、それから表面積を算出した。表面積は、不均一反応の効率に直接影響する重要なファクターである。火山爆発によって増加したエアロゾル上の不均一反応によってオゾン濃度が減少する効果は、エアロゾルの赤外線吸収による気温の上昇を緩和し、下部成層圏の昇温を約1年早く緩和することがわかった。また、硫酸の生成過程を3次元化学気候モデルに組み込み、硫酸エアロゾルの3次元分布をシミュレートした。さらに、最近報告されている亜熱帯西太平洋域冬季のオゾン全量が極端に少ない(220DU以下)領域の発生について、3次元化学輸送モデルによる計算と解析を行い、1996年から2002年までの極小値に対して、不均一反応の影響は2-3DU程度であることがわかった。この量は、この領域のQBOなどのオゾン輸送による変動(5DU程度)よりは小さいが、無視できる量ではない。今後もこの領域のオゾン量の監視が必要である。 最後に、化学輸送モデルを用いて、下部成層圏で水蒸気を約1ppmv増加させた数値実験を行ったが、オゾンホールの生成に大差は見られなかった。しかしながらこの数値実験の設定には、上に述べた硫酸エアロゾルや極成層圏雲に関する現在までの観測事実に基づくいくつかの仮定が含まれており、これらの仮定のいくつかが、将来の大気においては不適当となることも考えられる。その詳細は、下部成層圏における水蒸気の輸送過程が解明されなければわからないであろう。
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