大規模な雷雲-地上間の雷放電に伴い観測される下部電離層(高度85〜105km)中の発光現象「elves」は、雷放電電流から放射されるVLF(数kHz〜数十kHz)帯の大振幅電磁波が下部電離層中で窒素分子を励起することにより発生すると考えられている。本研究では、Full wave計算法を用いてVLF電磁波パルスの下部電離層における伝搬を厳密に計算することで、elvesの発生機構を明らかにすることを目的とする。 本来Full wave計算法は線形計算であるため、大振幅電磁波パルスによる下部電離層の電子加熱と、それによる電子密度及び衝突周波数の時間変化を扱うことができなかった。本研究では、これら電離層パラメータの時間変化の様子を定量的に評価し、結果として生じる電磁波パルス自身の減衰を近似的にFull wave計算に含める手法を開発した。それにより、高度85〜105kmで数百μsのうちに直径数百kmにわたってリング状に広がっていくelvesの時間空間発展を計算することに成功した。 また、1回のFull wave計算に際しては数億回以上の平面波の電離層伝搬計算が必要となるが、各計算が独立しているため並列計算が可能である。従来は40台程度のワークステーションを用いて並列計算を行っていたが、本研究では、高速CPU搭載の10台のPCにより構成される並列計算システムを構築して従来よりも高速に計算を実行することに成功した。様々なパラメータで計算を行った結果、雷放電から放射されたVLF電磁波が地球磁場に沿ってホイスラモード波で伝搬することにより、elvesのリング構造に南北及び東西の非対称性が生じることを明らかにした。また、電磁波パルス(雷放電電流)の強度に対するelvesの発光の様子の違い等を検討した。
|