宇宙プラズマ中での荷電粒子の輸送過程(拡散・加熱・加速を含む)について、以下に述べるいくつかの異なる観点から、理論数値実験、および人工衛星データ解析により総合的な議論を行ってきた。 その中心にあるのは、これまで長年にわたり粒子輸送の統計に用いられてきた「準線形理論」の検証である。準線形理論は数学的に簡単で理解しやすいため、宇宙線や太陽風中の高エネルギー荷電粒子の輸送など、宇宙・天体現象へ幅広く用いられている。しかし、準線形理論の2つの大きな仮定、つまり微少擾乱場、および擾乱に相関が無いこと、のいずれも宇宙プラズマ中の磁気流体(MHD)乱流では破れていると思われる。この観点より、本年度は(1).MHD乱流による荷電粒子の輸送過程における擾乱レベル・位相相関への依存性の議論、(2).荷電粒子の輸送をより正確に記述できるレピ拡散方程式の議論および(3).実際に地球磁気圏周辺で観測されるMHD乱流中の位相相関の検証、について検討を行った。具体的な研究進展状況は以下の通りである。 (1).荷電粒子の拡散過程の数値実験:テスト粒子実験を行うことにより、MHD乱流場中でのピッチ角拡散、エネルギー拡散、平行および垂直拡散について検討した。その結果、規格化された波動振幅が0.1程度で既に準線形理論との不一致が顕著になること、いずれの素過程の場合でも波動の位相相関の影響は重要であること等を見出した。 (2).レビ拡散方程式の議論:乱流場中に波動間位相相関が存在する場合、荷電粒子はレビ軌道をとり、それらのアンサンブルの時間発展は、非整数階微分方程式であるレビ拡散方程式に従う。レビ拡散方程式の数値解を求め、テスト粒子計算の結果と比較した。 (3)観測されるMHD乱流中の位相相関の検証:Geotai1衛星により得られた磁場データを用い、太陽風中のMHD乱流中に波動間位相相関が存在すること、これが乱流レベル、主要な波動の伝搬角と正の相関を持つこと、などを見出した。
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