宇宙線などの高エネルギー粒子の磁気流体乱流(MHD乱流)による拡散・加熱・加速過程(輸送過程と総称)は、準線形理論の枠組みを用いて議論されることが多い。しかしMHD乱流のエネルギーが大きいこと、MHD乱流を形成するMHD波動問に位相の相関が存在し得ること、の2つの効果により、準線形理論とは本質的に異なる輸送過程が実現する可能性がある。この観点から、テスト粒子計算による大振幅MHD乱流中の高エネルギー粒子の輸送統計量の評価、MHD乱流による粒子輸送の数理モデル、MHD乱流中の位相相関の評価、について研究を行った。 MHD乱流中で多数のテスト荷電粒子の運動を数値的に時間積分し、その結果の詳細な統計解析を行った。規格化された磁場振幅が0.1程度の比較的小振幅のMHD乱流であっても、拡散過程は準線形モデルによる記述とはかなり異なること(90度を越えるピッチ角散乱など)、また波動の位相相関の効果が顕著であること、などを見出した。拡散係数がスケール依存性を持つレビ統計による記述を行った。また、MHD乱流による粒子輸送の数理モデルを考察した。さらにMHD乱流を構成する波動の位相相関を定量的に評価する方法を開発し、人工衛星磁場データに適用して、位相相関が実際に存在することを示した。
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