研究概要 |
南海トラフ付加体の海底付近には膨大なメタンハイドレートが分布している.このメタンハイドレートは高いシール能力を有しており,有効なキャップロックとして機能する可能性がある.付加体深部で十分な熱分解炭化水素ガスが生成していることが明らかになれば,流体移動が活発な付加体では高い熱分解ガスフラックスを期待することができる.本研究では,南海トラフ付加体における熱分解ガスの挙動とそのフラックスを明らかにし,ハイドレートをキャップロックとして集積する新しい熱分解フリーガス鉱床の可能性を検討することを目的としている. 平成13年度は,陸上四万十帯堆積岩とODP Leg190(2000年5月,南海トラフ)で採取された試料について,これらに含まれる炭化水素ガスの検出を行った.陸上四万十帯堆積岩には流体包有物が豊富に認められた.クラッシング法によって流体包有物中のガスを取り出し,ガス組成をガスクロマトグラフによって測定した.メタン,エタン,プロパンが検出された.エタン,プロパンの存在度が高いことからこれらは主に熱分解ガスである.しかし,ODP Leg190の泥質岩では同じ方法によって,炭化水素ガスを検出できなかった.これは,ODP Leg190の泥質岩は圧密の程度が低く,浸透率が大きいためにガスが拡散していること,提供された試料には流体包有物をともなう自生鉱物が乏しかったことによる.計画した方法によって炭化水素ガスを検出できなかったため,計画を変更し試料中に生息していたメタンを利用する細菌のバイオマーカー炭素同位体比を測定し,熱分解メタンを利用していたかどうかについて検討を開始した.現在,各種ホパン酸,ホパノールの分析法を確立し,一部の試料について分子レベル炭素同位体組成を測定している.そのため,当初予定していたヘッドスペースガスサンプラーの設置を変更し,バクテリアバイオマーカー分析のための溶媒精製設備を充実させた.
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