研究概要 |
本研究の研究目的を達成するため,昨年度に引き続き太平洋周辺を中心として石灰質ナンノ化石と珪藻化石の検討を行った.その結果,昨年度確認された過去100万年間における両化石の群集組成の変動と,海洋環境の変化との関係をより明確にすることができた.とくに本年度詳しく検討したのは,銚子地域に掘削されたボーリングコアと東部赤道太平洋海域の深海底コアである.銚子地域では,昨年度明らかにした約85万年前に見られる寒冷化の影響を再確認し,85万年前以前には北半球太平洋側における緯度方向の温度勾配が小さかった可能性を見いだした.それとともに,90万年前から70万年前までの20万年問の化石群集の変動が,おおむね2万年の周期,すなわち気候歳差の変動周期を持っていることが明らかになった. 一方,同様な変動がその他の地域でどのように認められるのかを明らかにするために,東部赤道太平洋海域の珪藻化石を検討したところ,やはり85万年前周辺に海洋生物群集を支配する表層海洋循環の変化があったことが明らかになった.珪藻化石の変化によれば,少なくとも85万年前以前では赤道収束帯(Intertropical convergence zone)は現在の位置より南側にあったことが推定でき,赤道周辺の生物生産性は現在よりも低かったことが指摘できる.ところが,85万年前以降,赤道収束帯は北上し,現在の海洋循環システムに近づいたと考えられる.これらのことも85万年前は,地球規模で気候システムの転換が起こった時期であることを強く示唆する.来年度はさらに太平洋のそのほかの地域を検討し,最終的に85万年前にどのような海洋変動が起こったのかを総括する。
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