準安定相の核形成過程における結晶核中の不規則型積層欠陥構造の役割を明らかにするため、シリカ鉱物の準安定相を主たる対象として、室内合成実験並びにその生成物の内部構造の変化の観察、そして天然試料の解析を行った。その概要について以下に列記する。 1.成長反応の活性化自由エネルギーの測定 : 成長時の活性化自由エネルギーは、その素反応を知る上で非常に重要である。これらのことを明らかにする前段階として、温度約170-120℃における熱水合成実験を行い、過飽和度の変化ならびに結晶成長速度を求めた。過飽和度の変化より準安定相(クリストバライト)の晶出時よりも安定相(石英)の晶出時の方が高いシリカ濃度を示し、この温度範囲での石英の晶出には非常に高い過飽和度が必要である。このことは表面自由エネルギー不利による安定相の核形成抑止による準安定相晶出のモデルと調和的である。また、結晶の成長速度は二次元核成長あるいは一様成長による成長プロセスを示唆する結果が得られた。 2.成長速度の変化に伴う内部構造変化の観察:熱水合成実験により得られた生成物を透過型電子顕微鏡を用いてその内部組織の観察を行った。この結果、結晶の成長初期段階にはモガナイトと呼ばれる準安定相が晶出し、これが核となって石英が成長していることが明らかとなった。また、このモガナイトの結晶中には多数の積層欠陥が認められた。このことから安定相である石英においても準安定相を核としており、石英の同質核形成は低温域では非常に困難であることが示唆される。また、様々な温度における石英の内部組織ならびに含水量をカソードルミネッセンスと顕微赤外分光計で調べた結果、石英中の水の量は温度に支配されていることが示唆され、石英の核形成の抑止にはこの水の取り込みも影響していると考えられる。
|