1)南九州は姶良・阿多・鬼界カルデラで代表される大規模珪長質マグマの活動で特徴づけられる。これらのカルデラ火山の形成に伴った大規模な珪長質マグマの成因は、マントルウェッジで生成される玄武岩マグマの生成率とその組成、島弧地殻の化学的性質、および本地域で生じた展長テクトニクス(反時計回りの回転運動、背弧側沖縄トラフの拡大)などに密接に関連している。これまで姶良・阿多カルデラに関しては化学データが多く発表されているが、鬼界カルデラについてはデータがあまりない。そこで、本年度は前年度までの野外調査に引き続いて、鬼界カルデラの代表的岩石(玄武岩〜流紋岩)に関する全岩微量元素およびSr-Nd-Pb同位体比の分析を行った。先〜後カルデラ期をとおして、玄武岩質岩石は幅広い化学組成を示し、地殻物質の混染作用があったことが分かった。一方、同時期に活動した流紋岩の同位体組成は非常に均質であり、玄武岩の平均組成範囲にある。これは北方の姶良カルデラ流紋岩が、既存の島弧地殻の影響を著しく受けているのに対して、非常に対照的である。すなわち南九州の北部と南部とでは珪長質マグマの成因が全く異なることを示している。 2)南九州と類似したテクトニック環境にある南沖縄トラフの火山岩について、精密化学分析を行い広域的組成変化について明かにした。 3)当初の目的であったダブルスパイクを用いた高精度Pb同位体比の分析法の開発はほぼ確立し、九州地域および琉球弧、台湾地域の火山岩の分析に応用され、重要な結果を得た。 4)九州〜琉球弧にかけて沈み込んでいるフィリピン海プレートの化学組成の特徴を探るため、海洋科学技術センターの「かいこう」を用いた海底調査に参加し、代表的な玄武岩の採取に成功し、これらの化学分析を行った。
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