研究概要 |
日本各地の噴気地帯で,人が近づくことが可能な噴気孔からガス凝縮水を採取し,その水銀濃度を測定した。これらの火山地帯には,火山の噴火時にも相当する高温の噴気孔ガスを定常的に発散しているものがある。鹿児島県の薩摩硫黄島火山は,その一つであり,噴気孔温度が800℃にも達するものがあり,マグマ発散物の関連で興味が持たれている。同火山から噴気温度が異なる21個の噴気孔から採取した凝縮水中の水銀濃度は120〜135,000ng/lであった。また,同火山の凝縮水中の各種成分間の相関係数を求めた。その中で水銀と塩化物イオン濃度の間に高い正の相関(相関係数0.82)があることが分かった。このことは,噴気孔ガス中の水銀が塩化物の形で放出している可能性を示唆するものである。 しかし,熱力学的なデータを用いた化学平衡の計算からは噴気孔ガス中の水銀の化学形は,塩化物の形での放出の可能性は否定された。また,噴気孔の温度と水銀濃度との相関がみられないことなどから水銀の放出ルートは単純でない。水銀は温度が高くて,還元的な噴気孔ガス中では金属水銀蒸気の形で存在するという結果が得られた。 また,南九州を中心とした地熱水(温泉水を含む)や鉱山周辺の地表水や地下水中のヒ素,アンチモンの形態別分析法を詳細に検討し,その分析法を確立した。この方法を地熱水、河川水、地下水や海水などの環境試料水や,底質試料や生体などの固体試料中のヒ素,アンチモンの濃度と化学形,その分布と挙動を調べた。その結果,ヒ素,アンチモンは,その地域の地質特性を反映していると結論づけることができた。また,ヒ素,アンチモンは,地中などの還元的な雰囲気では低酸化状態の化学形が主導的であることが分かった。 水銀は,噴気孔ガス凝縮水を除けば,一般の環境試料中では液相中に,高濃度のものはない。したがって,噴気孔から放出される水銀は,金属水銀蒸気の形で放出され,大気中に拡散することが分かった。
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