本研究において、遷移金属(銅、コバルト、ニッケル)塩化物の結晶水和物-飽和水溶液-水蒸気系における各々の水素同位体分別係数を実験的に求めることができた。結晶水和物-飽和水溶液間の水の水素同位体分別係数は、その晶出時における温度依存性よりも、その結晶備造に著しく依存していることが明らかになった。特に、塩化コバルト六水塩における温度依存性は、純水の気液二相間の水素同位体分別係数の温度依存性よりも著しく小さかった。塩化銅および塩化コバルトの二水塩の同位体分別係数は晶出温度が異なるにも関わらず、似たような大きな同位体分別を示し、その結晶水の水素同位体組成は飽和溶液の組成よりも、約4%重水素濃度が低いことがわかった。また、飽和水溶液-水蒸気間の水素同位体分別係数を疎水性白金触媒を用いて独立に実験的に求め、別に得られた合水鉱物-飽和水溶液間の水素同位体分別係数を用いて、水蒸気を基準とする合水鉱物-水蒸気間の水素同位体分別係数を間接的に求めることによって、合水鉱物の結晶構造の違いが及ぼす水素同位体分別に関する知見・情報がより正確に得られた。 また、キャパシタンスマノメータで蒸気圧を測定するための真空ラインを製作し、水の水素同位体に関するアイソトポマーであるH_2OとD_2Oの蒸気圧およびその蒸気圧差が、正確にかつ精度よく測定できることを確かめた。25℃で、H_2OおよびD_2O系における遷移金属(銅、コバルト、ニッケル)塩化物の結晶水和物の解離圧およびその差圧を測定した。その結果、一般にD_2O体の方がH_2O体よりもその解離圧は低く、また、両者共に、それらの飽和水溶液と平衡に存在する水蒸気圧は、解離圧とは僅かながら異なることが明らかになった。
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