研究概要 |
本研究の目的は、我々のこれまでの量子制御研究の成果をふまえて、化学的に興味のある光化学異性化反応系に対して量子制御理論を適用し、新しい処方筆を得ることであった。本報告書の研究発表のところに示されているように、主要な成果の一つは"Quantum control of molecular chirality : Optical isomerization of difluorobenzo[c]phenanthrene"のタイトルで,アメリカ化学会誌J.Am.Chem.Soc.(2002).に掲載されている。2年の当該研究期間中に目的を達成することができたと確信している。その研究成果を要約する。とりあげた系の一つはdifluorobenzo[c]phenanthreneの赤外多光子異性化である。これはM型とP型の分子キラリティー変換をともなうもので、生化学的に興味がもたれている。平面偏光レーザーによってラセミ体から純キラリティー分子を得る新しい方法を確立することができた。もう一つの系はバクテリアロドプシン類似アナログのトランスーシス光異性化である。よく知られているように、これは光合成の初期過程を支配している系である。電子励起状態と基底状態のポテンシャル交差(非断熱相互作用)の大きさに制御パルスがどのように依存するかを明らかにした。非断熱相互作用が小さい場合、制御過程は3種類から成り立っていることがわかった。トランス体基底状態から電子励起状態への核波束のポンプ過程、電子励起ポテンシャル曲面上での核波束運動のブレーキ過程、そして電子励起状態からシス体基底状態への核波束のダンプ過程からなる。
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