研究概要 |
アルカリ原子とビニル分子からなるクラスター内では、原子から分子に電子移動が起こりその分子がさらに他の分子を求核攻撃して重合反応が進行することが期待できる。実際このようなクラスターを真空中で生成し、それらの構成分子数(サイズ)による分布を光イオン化質量分析法によって観測した。その結果、例えばM(M=Na, K)-アクリロニトリル(CH_2=CHCN, AN)系では、M(AN)_n^+の質量スペクトルでn=3,6,9...のイオン強度が大きく観測された。これは金属原子からの電子移動により州のアニオン重合反応が起き、特に3の倍数のサイズでANが3個ずつ結合してシクロヘキサン環状化合物を形成するために安定化すると説明された。同様の傾向はアクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、メチルビニルケトンでも観測され、アニオン重合による環化反応の存在が明らかとなった。 さらに本年度は、(1)イオン化で生成したK(AN)_n^+からの単分子準安定解離の観測、(2)Na(AN)_n^-負イオンのサイズ選別レーザー光電子分光の適用、(3)重合反応系と類似した系であるMg(AN_n^+イオンのサイズ選別光解離の観測を行った。その結果、(1),(2)からはANの環状3量体の存在を示唆する結果が得られた。また、(3)からはアルカリ金属原子と等電子系のアルカリ土類金属-価イオンを含む系で、特に光誘起アニオン重合反応の発見を期待して実験を行った。現在までのところ重合反応の存在を示す結果は得られていないが、理論計算からはn=3ですでに金属イオンからAN分子への電子移動を示す結果が得られた。
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