研究概要 |
振動相互作用が大きい振動モードは,それ故に構造にsensitiveであり,特にタンパク質の場合には,種々の経験則を基にした振動スペクトルの解析から,タンパク質の構造に関する多くの有用な情報が得られる。また,液相系についても,振動相互作用が大きい振動モードにはラマンnoncoincidence効果が見られ,その解析から液体構造についての情報が得られる。このように,振動相互作用が大きい振動モードの解析は構造化学的に重要であり,それらのモードが関係した現象を解析することによって,深い洞察が得られることが期待できる。一方,振動相互作用が大きいということは,振動モードが空間的に非局在化しやすいということを意味するが,これを時間領域で捉え直すと,振動の共鳴励起移動が起こりやすいということになる。近年,時間分解分光測定の技術の進歩に伴い,時間領域光学過程のシグナルが得られるようになってきた。 本研究では,時間領域光学過程のシグナル強度を決定する要因を解明する第1歩として,極性分子液体の低波数ラマン及びOKE強度に対する分子超分極率の効果を考察した。非共鳴ラマンバンドや光学的カー効果(OKE)の強度は,分極率テンソルの時間変化によって生ずる。分子間相互作用に由来する強度増大は,多くの場合dipole-induced dipole(DID)メカニズムにより記述される。双極子モーメントに関するDIDメカニズムの表式を電場で1回微分して得られる,分極率に関する表式において,双極子場による分極率変化を表すμβ項は,これまで取り入れられていなかったが,理論の自己無撞着性の観点から,これを含めるのが適当である。ここでは,μβ項がどの程度の強度を持つのかについて,液体ホルムアミドとN-メチルホルムアミドを対象に,理論的検討を行った。
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