二元混合液体の中でもその混合状態が極めて特異と考えられている閉環状の2相共存線を有する二つの系、グリセリン-グアヤコール(2-Methoxyphenol)系および(重水・水)-βピコリン系について、上部臨界温度・下部臨界温度近傍での水素結合の変化とクラスター形成・濃度揺らぎの特性を、光散乱(数百nmのオーダーの情報)および中性子回折(1nm程度のオーダーの情報)さらに質量分析器を用いたクラスターサイズの直接測定によって調べた。 光散乱の実験ではArイオンレーザーを光源とし、圧力掃引式Fabry-Perotエタロンを用いて、Rayleigh-Brillouin散乱を観測し、その解析にはBhatia-Thorntonの部分構造因子Scc(0)と混合のGibbs自由エネルギーΔGを結びつける式を導出して用いている。中性子回折の実験は日本原子力研究所東海研究所のJRR-3MのAGNESスペクトロメーターを用いて準弾性散乱を測定している。試料はモル濃度で5%刻みで用意し、測定温度は室温(25℃)から95℃までで、特にグリセリン-グアヤコール系の光散乱の実験で2相共存線近傍では0.1℃以下の刻みで測定した。 実験結果から求めた混合のエントロピーΔSは、上部臨界温度より高温側では理想溶液的であるが、下部臨界温度より低温側ではクラスターの形成をうかがわせるものであった。(重水・水)-βピコリン系については中性子回折実験ができなかったが、産業技術研究所の脇坂昭弘博士の協力により、質量分析器によるクラスターサイズの直接測定を行った。まだ十分なデータが揃っていないが興味ある結果がでてきており、さらに実験を共同で行う予定である。 実験データとの比較のために、分子動力学シミュレーションも試みている。対象とする系は異なるが、混合液体系の速度相関関数に興味ある結果が見つかり、ドイツのコンスタンツで開催された第5回LMC(Liquid Matter Conference)において報告し、情報交換を行ってきた。
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