研究概要 |
平成13年度は,亜臨界水・超臨界水中の蟻酸の解離反応,水の結晶化過程,液体の2次元ラマン分光の理論研究を進めた. (1)蟻酸の解離反応 蟻酸分子は周囲の水分子が触媒となり,trans体ではCOとH_2O,cis体ではCO_2とH_2Oに解離する.そこで,量子化学電子状態計算と分子力場法を組合せたQM/MM法さらに分子動力学法を組合せ,亜臨界および超臨界水中における解析を行った.その結果,cis体では触媒となる水分子の分布が超臨界・亜臨界状態ともにあまり変化しないのに対し,trans体では触媒として働く水分子の存在確率が,亜臨界状態に比べ超臨界状態では非常に小さくなり,trans体の蟻酸からCOとH_2Oへの脱水反応が起こりにくくなることを明らかにした. (2)水の結晶化過程 等温等圧の分子動力学法により結晶化のダイナミクスの解析を行い,ポテンシャルエネルギーがあまり低下しない時間領域(誘導時間)のあと,ポテンシャルエネルギーがゆっくりと減少し,その後急激に安定化し結晶核の成長が見られることを示した(Nature,印刷中).また,液体状態と結晶状態の中間から両方の状態に結ぶ経路を多数発生させ,Path Sampling法を応用することにより,結晶化(融解)の自由エネルギー面の解析を進めている. (3)液体の2次元ラマン分光 分子動力学計算に基づき,CS_2と水の2次元ラマン分光(5次の非線形光学過程)の解析を行った.特に,我々の解析によりこれらの液体のシグナルには強度の符号が変わる節が存在することを明らかにした.この節は,ほぼ同時期にカリフォルニア大学バークレー校のFleming達の実験でも観測された.解析を進めた結果,この節は低次の分光法ではとらえることのできない動的なモードの結合によることを明らかにし,高次非線形分光法による詳細な位相空間ダイナミクスの解析の可能性を示した.現在,実験の論文とともにPhys.Rev.Lett.に投稿中.
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