本科学研究費により、凝縮系の揺らぎの解析を行った。具体的には、多次元分光法、水の相転移ダイナミクス、超臨界水中の化学反応の解析を行った。 我々は、世界に先駆けて液体の2次元ラマン分光法の理論研究を進めてきた。2次元NMRが1次元NMRに比べ構造の詳細な情報を提供するのと同様、2次元ラマン分光法からは従来のラマン分光法にはないダイナミクスなどの情報を得る事ができる。多次元ラマン分光法の実験および理論計算は非常に困難であったが、我々およびバークレー校のグループがほぼ同時期に二硫化炭素液体の理論計算と実験に成功した。分子動力学計算に基づく結果には、応答関数の符号が変化する領域が見られることが明らかになった。様々な解析を進めた結果、液体中の非調和的なダイナミクスによるものであることが明らかになった。3時間相関関数および安定性行列に基づきシグナルの解析を行った。さらに、各瞬間の基準振動を用いてシグナルを解析し、回転運動の間の結合が重要であることも明らかにした。現在、二硫化炭素液体の2次元ラマン分光の温度依存性、また、他の液体に関しても詳細な解析を進めている。さらに、神戸大学の実験グループ(富永圭介教授)と、メチルアルコール中のOCNおよびSCNの3パルス赤外フォトンエコーによるピークシフトにより揺らぎの解析を行った。 また、氷の融解過程ダイナミクスを解析し、水素結合ネットワークの乱れを契機にして結晶構造が融解していくことを明らかにした。さらに、水の相転移過程において分子の配置・配向秩序と密度変化がどのように進行するかを明らかにした。 超臨界水中のギ酸の解離反応について解析し、超臨界状態と亜臨界状態での溶媒和の変化が反応経路を変え、生成物を変える事を明らかにした。さらに、水の自己解離反応の温度依存性を明らかにした。
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