1.極低温、超高分解ESRスペクトル 超高純度パラ水素は核スピンがなく、ESRスペクトルの線幅の原因となる磁気的相互作用がないので、ESR吸収線が鋭くなり高分解能ESR測定が出来ることを筆者が初めて提案した。超高純度パラ水素固体中において、C_2H_5ラジカルのESRスペクトルは23本の線スペクトノレから成っている。スペクトルの温度依存性を調べた結果、CH_3基の内部回転のエネルギー障壁は5.3Kであることを明らかにした。今後、超高純度パラ水素固体を用いた超高分解ESR測定法により、極低温で存在するラジカルの精密な構造解析が可能となった。 2.相互作用のない媒体中の化学反応 化学反応においてエネルギーの散逸効果が反応を制御することがある。これまでの研究はいずれも古典的過程に対するものであり、トンネル反応については研究例がない。また、この効果は主に気体でみられた。超高純度パラ水素は固体でありながら、反応物との相互作用が非常に小さく、相互作用からみると真空のような物体である。筆者は極低温超高純度パラ水素固体中で、H原子のトンネル再結合反応や電子バブルのトンネル中和反応に対して、エネルギーの散逸効果が顕著に現れることを初めて発見した。
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