本研究課題は、平成13年度からの3カ年計画の研究課題である。平成13年度は、主にこの研究を遂行するための方法論の開発を行った。今年度は、昨年度開発した方法を5メチル-9ヒドロキシフエナレノン、5メチルマロンアルデヒド等の分子の問題に応用し、置換基の内部回転が分子内水素移動反応に及ぼす影響を理論的に検討した。具体的には、上述のそれぞれの分子種に対し置換基の内部回転と分子内水素移動反応の両方を同時に記述するための3次元の反応曲面Hamiltonianを作成し、その固有状態を高励起状態まで精度良く計算し解析を行った。反応曲面Hamiltonian中のポテンシャルエネルギー曲面は、高次の電子相関が入ったab initio CCSD法による電子状態の計算により求めた。固有状態は、数万個の基底関数を用いた変分法により求めた。解析結果からは、メチル基の内部回転が励起すると水素移動反応が促進されると言う実験結果が確かに確認された。また実験では求められていない内部回転の高励起状態を解析する事によりこの水素移動反応の促進はある程度内部回転が励起した所で飽和してしまう事、そして更に内部回転を励起すると今度は逆に水素移動反応が阻害されて来る事が解った。現在これら一連の現象が起きる理由やメカニズムを調べるために、メチルトロポロン等の他の系で改めて同等な計算を行いこれまでの結果を再検討すると共に、この問題を簡単化したモデル系での解析を進めている。
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