研究概要 |
励起酸素原子O(^1D)と炭化水素、水、オゾン、窒素酸化物などとの反応は、燃焼化学ならびに大気化学において重要な役割を果たす自然界でごく一般的な反応であるとともに、3〜5原子程度からなる基本的な系として、その動力学を様々な観点から解明することは気相反応を第一原理から理解していくために欠かせない。本研究ではこれらの反応のうち、O(^1D)と亜酸化窒素N_2O分子との反応に焦点を当てた。 反応O(^1D)+N_2Oによる生成物はNO+NOとN_2+O_2の2つの経路があり、NO+NOの経路のほうがやや優勢で、この経路は成層圏のNOの主要な生成源となっている。この反応は、一般的に発熱反応が多いO(^1D)の反応のうちでも発熱量が大きい一方で、反応中間体は生成物に対して僅かしかエネルギー的に安定でない。それにもかかわらず、生成物のNOが多くの振動回転準位に比較的統計的な分布に近いかたちで生成することが解明すべき点として残されている。 本研究では、これまで統計的に近い分布であるとされていながら、分布の大半が測定されていなかったNOの回転分布を振動準位v=0,1,2についてj=100程度まで測定し、その分布を完全に決定した。さらに非経験的分子軌道計算によって求められたポテンシャル曲面上で準古典軌道計算を行い、実験結果と比較した。その結果、反応の前半で中間体の振動自由度の間で効率的にエネルギー移動がおきて分布の概形が決まり、反応の出口側のポテンシャルによって高い回転準位に相関する運動が制限される可能性が示唆された。今後は、反応の前半で効率的なエネルギー移動がおきるのかを明らかにしていくことで、化学反応における統計的挙動の理解に新たな知見をもたらすことができると考えられる。またN_2+O_2を生成する経路についても実験を行い、基礎的な知見を得た。
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