研究概要 |
光イオン化の断面積が、振動数依存の分極率α(ω)の虚数部分から求めることができ、またこの分極率の表式が、変分的安定性を持っていることに着目すると、分極率の変分量が零となるパラメーターが、光イオン化断面積を求める上で最適であることが分かる。通常実数である電子の動径座標を複素数に拡張する複素座標法によると、L^2の基底関数を用いて束縛-連続状態間の行列要素を、その解析性を含めて計算することが出来る。しかし、これまで基底関数を選び出す方法が確立しておらず、収束した解を得るためには、多くの基底関数が必要となる欠点があった。そのため、様々な系における光イオン化断面積の計算を効率良く行うためには、用いる基底関数の最適化法を確立する必要がある。 本研究では、正確な解析解が知られている水素原子の1s→kp,2p→kd,2p→ksに対する光イオン化を取り扱い、基底関数としては、STOおよびGTO型を用いて基底関数に含まれるパラメーターを最適化した。実際の計算では、座標を複素数にする代わりに、軌道指数を複素数にして、通常の実数ハミルトニアンを用いた。パラメーターとしては、連続状態用にeven-temperedとした複素数の軌道指数の初項と項比を考えた。各パラメーターの最適化は、(多変数の)Newton-Raphson法によった。STO, GTOともに複素軌道指数の最適化を行うことにより、1〜2個の少数の基底関数で、解析解と良く一致する光イオン化断面積を得ることが出来た。一般的な多電子系に関しても、散乱状態用に比較的少数の複素基底関数を追加し、分極率α(ω)に含まれるそのパラメーターを最適化することにより、効果的に光イオン化断面積の計算が出来るものと期待される。
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