本課題ではベンゾフェノンケチルラジカルとアミン類との間での錯体形成と錯体の反応速度について研究を推進した。ケチルラジカルはシクロヘキサン中でベンゾフェノンを308nmのエキシマーレーザーで光励起することによって生成した。錯体の再結合反応速度を求めるためには、錯体のモル吸光係数を決定する必要がある。トリ-n-プロピルアミン(TPA)との錯体についてシクロヘキサン中でアミン濃度を変化させて過渡吸収スペクトルを測定し、吸収極大のモル吸光係数はε(548nm)=4100M^<-l>cm^<-1>と決定された。得られた値をもちいてフリーなBPHの再結合速度定数に対する錯体の再結合速度定数の相対値を求めたところ、BPH-TEA錯体で1/2.0、BPH-TPA錯体で1/1.4となり、錯体結合により再結合反応が阻害されていることが分かった。しかし、予想に反してTEAよりかさ高いTPAによる阻害効果の方が小さいという結果となった。この原因として、1)BPHとアミンは水素結合により錯体を形成することが知られているが、2つの錯体の間で水素結合の強さが異なること、2)プロピル基とエチル基の柔らかさの違いにより阻害効果に差異を生じること、などが考えられる。 次にベンゼンを溶媒として再結合速度に及ぼす溶媒の粘性効果を調べた。BPH-TPA錯体のベンゼン中における再結合速度定数はシクロヘキサン中の1.6倍であった。理論によると溶液中の拡散速度は粘性率の逆数に比例することが知られている。ベンゼンとシクロヘキサンの粘性率の逆数比は1.46であり、測定された再結合速度定数比とよい一致を示している。このことからBPH-TPA錯体の再結合反応は拡散律速であることが証明された。
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