研究概要 |
環境破壊など負の作用を伴わず、自然界に適合した人類の持続的発展のためには、新概念に基づく新規物質合成法の確立が急務である。従来、金属一つを含む単核キラル反応場での反応が開発されてきたが、立体選択性が不充分である、触媒活性が低い、実現できない反応があるために多段階の反応を要する、などの諸問題が山積していた。本研究ではキラル反応場の複核化という新概念の基に、個々に特徴ある機能を有する金属複数を、配位機能を考慮しながら積極的に集積した複核キラル反応場を構築することにより、単独の金属を用いるだけでは実現不可能な新規不斉合成反応の開発を行なった。特に両鏡像体ともに入手可能な酒石酸エステルの活用を計り、精密な制御が可能な反応場の構築を試みた。 ヒドロキシモイルクロリドよりも安定で取扱いが容易なアルドオキシムをニトリルオキシド源として用い、反応系内における直接酸化により単離困難なニトリルオキシドを系内調製し、アリルアルコールへの不斉1,3-双極子付加環化反応を試みたところ、対応する(R)-2-イソオキサゾリンが高エナンチオ選択的に得られることを明らかにした。また、再現性良い高エナンチオ選択性の発現には、1,4-ジオキサンの添加が極めて効果的であることを見出した。 ニトロソ化合物のヘテロDiels-Alder反応は、協奏的な付加環化により窒素原子と酸素原子を一つずつ含む六員環化合物を合成する反応であるが、現在までエナンチオ選択的反応の報告例はなかった。そこで、これまでに得た知見をもとに、ニトロソ化合物の不斉ヘテロDiels-Alder反応を試みたところ、亜鉛原子を二つ有するキラル反応場設計により、世界で初めてニトロソ化合物の不斉ヘテロDiels-Alder反応に成功した。 以上のようにキラル反応場の複核化という概念は、立体化学の制御に極めて有効であることを、実証できた。
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