酸化・還元に代表され電子移動反応は、有機合成化学において汎用される極めて重要な反応である。この電子移動反応が溶液中で起こるとき、生成するカチオンラジカルやアニオンラジカルなどのイオン種が溶媒の双極子またはイオン等の配位により安定化されることが知られているが、一般に電子移動が起こる前の電気的に中性な基質においてはこのような配位は非常に弱い。本研究では、この効果をより積極的に利用するため、電子移動の際にイオン中心を安定化する置換基を基質中に導入することで、電子移動反応を制御することを目的とする。 本年度は、前年度までに合成したケイ素上に2-ピリジルエチル基を有するα-ヘテロ原子置換有機ケイ素化合物と2-ピリジルエチル基を持たない化合物の電解反応を行い、炭素-ケイ素結合切断と後続する求核剤の付加の挙動の比較を行った。とくに同一分子内に2-ピリジルエチルジメチルシリル基と通常のトリメチルシリル基を持つα-チオエーテルを電解酸化反応に供した場合には、選択的に2-ピリジルエチルシリルのみが切断されるという非常に興味深い現象が観測された。また、これらのケイ素化合物の酸化電位測定を種々の異なる溶媒を用いて行った結果、顕著な溶媒依存性が観測された。これは、1電子移動により生成するであろうカチオンラジカル中間体に対するピリジルエチル基の動的な分子内配位の強弱が、溶媒の極性によって影響をうけた結果であると考えられ非常に興味深い。
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