研究概要 |
今年度は,非平面性の程度が異なる種々の拡張キノン類を合成し,非平面性と物性の相関を検討した.1-メチルアントラキノン,2-メチルアントラキノン,1,4-ジメチルアントラキノン,1,4-ジメトキシアントラキノン,1,8-ジメトキシアントラキノン,5,12-ナフタセンキノン,ベンズ[a]アントラセン,7,12-ジオンを原料とし,リチウム4-リチオ-2,6-ジ-t-ブチルフェノキシドを反応させた後脱水することで相当するターキノン類(順にターキノン1-7とする)を合成した.このうち,ターキノン5以外について分子のエキソメチレン部の回転障壁エネルギーを見積もった.最も立体障害の小さい2-メチル体2が約17kcal/mlであるのに対し,1-メチル体1は21.8kcal/molであり,さらに1,4-ジメチル体3および1,4-ジメトキシ体4では23kcal/mol以上となり,ペリ位の置換基の立体効果の大きさを示す結果となった.一方,ナフト縮環体6,7についてはそれぞれ21.1kcal/mol,19.0kcal/molとなり,より立体障害が大きいと思われる7の方がエネルギーが小さいことは興味深いターキノン6,7は光照射によるジラジカルヘの変換を行うのに対し,1,3は光異性化反応に対して不活性であり,上記の結果を反映していると言える.また7には分子不斉が存在するので光学分割できればキラルなターキノンの光異性化反応に興味が持たれたが,上記の回転障壁エネルギーから考えて光学分割は困難と予想される.今後,光学分割可能で,かつ光異性化に活性な分子の合成を目指す. さらに,新規な非平面キノメチド分子である,6-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-6H-ベンズ[d, e]アントラセン8および7-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキソ-シクロヘキサジエン-1-イリデン)-7H-ベンズ[d, e]アントラセン9を合成した.8は濃紫色,9はオレンジ色の結晶で,9のエキソメチレン結合は室温で容易に回転している.しかしながらその電子スペクトルは溶媒効果を示さず,その構造,非平面性には興味が持たれる.
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