研究概要 |
平成14年度は,平成13年度の研究で不十分な点を補うとともに,水酸基以外の官能基との分子間水素結合を利用した光反応系への展開等を検討したところ,次の知見が得られた。 1.カルボン酸誘導体として芳香族イミド類を用いて,ケイ光スペクトルに対するカルボン酸の添加効果を検討した。酢酸を用いた場合には,アルコールの場合と比較して少し強いが,類似した効果が認められたが,さらに強酸であるトリフルオロ酢酸を用いると,明らかに吸収スペクトルにも大きな変化が現れ,ケイ光スペクトルにもイミドの構造に強く依存して顕著な変化がみられた。すなわち,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が大きなイミドの場合にはトリフルオロ酢酸の添加によって最大発光波長が長波長シフトすると同時にケイ光強度の減少が認められたが,特に1,2-ナフタルイミドの場合の強度の減少は非常に顕著なものであった。一方,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が小さな1,8-ナフタルイミドの場合には最大発光波長の長波長シフトと同時に,低濃度(〜30mM)の酸の添加によってケイ光強度が約5倍と顕著に増大し,より高濃度の添加によって,ケイ光強度が減少する,二段階のスペクトル変化が観測された. 2.酸の添加が光反応に及ぼす影響を明らかにするため,1,8-ナフタルイミドとスチレンとのベンゼン中での[2+2]光環化付加反応に対するトリフルオロ酢酸の添加効果を検討したところ,ケイ光強度の変化にほぼ対応して反応性が変化することが明らかになった。 以上のように,芳香族イミド類のような系では,カルボン酸との水素結合は,分子の空間配向の制御だけではなく,励起分子の反応性自体も制御可能であると考えられる。また,酸の添加によって引き起こされるケイ光強度の増減がイミド化合物の種類に強く依存し,またその変化が顕著である点も非常に興味深いと思われる。
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