遷移金属イオンと有機分子間の結合相互作用の本質の理解を目的として、気相における銅イオンと有機分子間の結合エネルギーに及ぼす構造効果を解析した。本研究では結合部位の構造が一定に保持され、有機分子の金属イオンに対する配位能の変動が電子的効果だけに依存する系としてアセトフェノン及びピリジンの銅イオンに対する気相塩基性度GB(Cu^+)に及ぼす置換基効果を解析し、共有結合相互作用が支配的なプロトン塩基性度GB(H)及び静電的相互作用の基準となるリチウムカチオン塩基性度GB(Li)との比較から銅イオン-有機分子間の相互作用の特性を検討した。 アセトフェノンのGB(Cu)に及ぼす置換基効果の解析は、GB(H)に比較して共鳴効果の寄与が23%低下しているに対して、GB(Li)の置換基効果では37%の低下を示した。また、GB(Cu)の1分子当たりの置換基効果の大きさはGB(H)に対して0.62に低下したが、対応するGB(Li)に比較すると1.20倍大きい。同じ結果はピリジンの置換基効果においても観測され、銅イオンとの会合によるアセトフェノンのカルボニル炭素あるいはピリジンの窒素原子上の陽電荷の生成がリチウムカチオン会合体より大きいことを示した。また、分子内2配位による環構造の会合体イオンを与えるMeO(CH2)nOMeのGB(Cu)はnが4から9に変わると10kcal/molの増大を示した。一方、GB(Li)では2kcal/molにすぎないことが見いだされ、銅イオン会合体ではO-Cu-O結合の直線性が会合体イオンの安定性に重要であることを示唆している。これはDFT理論計算から得た会合体イオンの最適化構造の特徴に一致した。 これらの事実から、銅-酸素及び銅-窒素結合エネルギーには静電的相互作用が支配的であるが、共有結合相互作用も重要な寄与をしていることが結論された。
|