研究概要 |
まず、亜酸化窒素の捕捉活性化による触媒的なオレフィンのエポキシ化反応を検討した。ルテニウムポルフィリン存在下、安息香酸コレステリルに亜酸化窒素を作用させると、対応するエポキシドが完全なβ-選択性で得られた。また、第2級アルコールないしベンジルアルコールの亜酸化窒素酸化では対応するケトンないしアルデヒドが高収率で得られた。さらに、ベンジル位炭素の酸化、脱水素芳香環化反応においてもルテニウム錯体触媒による亜酸化窒素酸化の可能性について検討した結果、9,10-ジヒドロアントラセンの酸化で、アントラキノンの他に脱水素芳香環化されたアントラセンが高選択的に得られることがわかった。以上、適切な錯体触媒によって亜酸化窒素を酸化剤とする酸化反応が実現されることが実証された。 そこで新規錯体系としてルテニウムケトイミナト型錯体を用いる触媒的酸化反応への展開を試みた。軸配位子にニトロシル基と塩化物イオン、一酸化炭素を持つものを合成した。酸化剤としてメタクロロ過安息香酸を共存させる酸化反応ではオレフィンのエポキシ化反応がルテニウム錯体触媒を通して進行していることが確認された。 一方、ケトイミナト型コバルト錯体はジアゾ化合物とスチレン類との不斉プロパン化反応の触媒となるが、反応機構の理論的取扱はほとんど報告がない。密度汎関数法による反応経路解析の結果、電子供与性軸配位子の共存では反応加速とともに、不斉収率も向上する現象を明らかにした。また、コバルトカルベン錯体は、銅・ルテニウム錯体などのカルベン炭素-金属結合が二重結合であるのとは異なり、カルベン炭素-金属結合は単結合で、ラジカル種であることを時間分解赤外分光を併用し明らかにした。カルベン錯体は、酸化反応の活性中間体と考えられている金属-オキソ錯体と類似の構造であり酸化活性種のモデル化合物として酸化触媒の合理的設計に有益な指針を与えることが期待される。
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