γ-シアノプロピルコバロキシム錯体(1)およびγ-(メトキシカルボニル)プロピルコバロキシム錯体(2)の結晶に可視光を照射するとβ置換錯体を経てα置換錯体まで二段階異性化反応が進行すること、また、不斉な結晶格子を有する錯体を用いると結晶格子に制御されて固相不斉異性化反応が進行することは明らかにしてきていた。今回は、さらに様々な軸配位子を有する錯体を合成し、固相光異性化の反応速度を詳細に検討したところ、1のシリーズでは、一段階目の異性化の速度定数(k_1)より二段階目の異性化の速度定数(k_2)の方が大きいが、2のシリーズでは、逆にk_2よりk_1の方が大きいという結果が得られた。反応基上の置換基が小さいシアノ基である1では、結晶格子中に十分な反応空間があるため、格子の制御よりも他の要因つまり電子的要因が大きく影響してくる。反応速度は中間に生成する2種類のラジカル種(γ置換錯体より生成するγラジカルおよび、β置換錯体より生成するβラジカル)の安定性に依存し、このうち、カプトデイティブ効果の効くβラジカルの方が安定であるため二段階目の反応の速度の方が大きくなったと考えられる。しかし、置換基が嵩高い2では、1より相対的に反応空間のゆとりが減るため結晶格子による制御が強まり分子内の電子的因子より優先するようになる。そのため、特により大きな動きが必要な二段階目の速度が低下したと考えられる。また、従来エチル錯体では、一般的に格子の制御が支配的であったが、炭素鎖がプロピルと伸長したことで反応空間が大きくなり、1のような例が出てきたと考えられる。次に、γ置換プロプル錯体の異性化反応において結晶格子による制御を高めるために、さらに嵩高い置換基を有する反応基の導入を検討することにした。また、固相ラセミ化の速度の制御に決定的な役割を果たした結晶格子内の分子間水素結合の導入を図るために、アミド基を導入することにした。そこで、常法により合成したN-フェニル4-ブロモブチリルアミドと(アニリン)(クロロ)ビス(ジメチルグリオキシマート)コバルト(III)から系内で調製した1価の錯体を反応させて、3-(N-フェニルカルバモイル)プロピルコバロキシム錯体(3)を合成した。これより、さらに酸牲条件下、配位子交換反応により軸配位子を数種類の塩基に交換し、対応する錯体を得た。現在、これらの光反応の検討中である。
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