アルキルコバロキシム錯体の固相反応は、反応基周辺の自由空間キャビティに制御されていた。キャビティを制御するには水素結合等により分子間の距離を制御する方法と、平面配位子を変換するなど分子内からのアプローチと二通りが考えられる。まず、前者の試みとして、分子間水素結合の生成が期待できる、γ-N-フェニルカルバモイルプロピル錯体の結晶に可視光を照射すると、二段階異性化反応が進行しα置換錯体が得られたが、同時に分解反応が起きオレフィンが多く生成するという従来とはかなり異なった反応性を示した。X線結晶構造解析によると、反応基には分子間水素結合があり、またキャビティが極めてタイトに絞られていることが明らかになった。これにより反応基の動きが制限されたと考えられる。次に、キャビティの拡大と新規反応の探索の試みとして、平面配位子に嵩高いジフェニルグリオキシムを導入したβ-アリルオキシエチル錯体を用いて検討を行ったところ、α置換錯体への異性化とともに空気中の酸素がコバルト-炭素結合に挿入された生成物が得られた。従来、固相ではこの様な反応の報告はほとんど無かった。嵩高い平面配位子により結晶中の空間が拡大し、酸素分子が進入できるようになったと考えられる。さらにβ-フェニルエチルなど様々な反応基、軸配位子を有する錯体で検討を行ったところ、反応基上に置換基の嵩高さと軸配位子の種類によって反応性が著しく異なることが明らかになった。結晶構造や分子構造と反応性などの関連を詳細に調べてみると、軸配位子の塩基性が強くなると嵩高い平面配位子が軸配位子方向にひずみ、そのため周辺分子が反応基に近づきやすくなりかキャビティが小さくなる、結果として反応性が下がるということが明らかになった。これより、今後、従来制御不可能であったキャビティの体積をコントロールして新規な固相反応をデザインしてすることが可能になると期待できる。
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