研究概要 |
二つのアントラセン環から構成される軸不斉9,9'-ビアントリルの構造を用いてキラル空間の構築するために,2,2'-二置換体を中心にエナンチオピュア体の合成と立体化学的な研究を行った. まず,ラセミ体が良好なホストであることが知られている2,2'-Clの純粋なエナンチオマーを合成した.昨年度に効率的な光学分割と絶対立体化学の決定に成功した2,2'-COOHを用いて,これをBarton法により脱炭酸クロロ化すると中程度の収率で目的の化合物が得られた.この化合物はラセミ体ほどではないが,いくつかの有機分子を包接することが明らかになった.次に,これまでに合成された置換基=Cl, COOH, COOCH3のエナンチオマーの円二色性(CD)スペクトルを,理論計算を交えて詳細に解析した.種々の計算法を試みたところ,時間依存密度汎関数(TDDFT)法が比較的良好に実測スペクトルを再現することがわかった.いずれの化合物でも,M体は400nm付近にpバンドの勃起による負のCotton効果を示した. ビアントリルにより構築されるキラル空間を拡大および配列制御するために,上記の構造の10,10'位にさらに置換基を導入するための反応の検討を行った.ブロモ化,シアノ化,加水分解の一連の反応によって,ジカルボン酸を得ることに成功した.2,2'-無置換の9,9'-ビアントリル-10,10'-ジカルボン酸のX線構造解析から,カルボキシルの分子間水素結合によって,分子が9,9結合の軸方向に一次元的に配列していることが示された.この分子設計をキラルな9,9'-ビアントリルに応用していくための準備が整った.
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