研究概要 |
9,9'-ビアントリル系のキラル化合物について,包接化と円二色性(CD)の理論計算を中心に研究を行った.2,2'-ジカルボン酸誘導体では,メチルエステルとフェニルエステルのラセミ体と光学活性体の包接能を比較した.その結果,光学活性な(M)-メチルエステルはベンゼン,メタノール,2-プロパノールなどの種々の有機小分子を包接したが,その他の化合物はほとんど包接能を示さなかった.X線構造をもとに分子間相互作用や空孔の大きさを評価し,包接能の違いを議論した.3,3'-ジカルボン酸誘導体では,光学活性メチルエステルの合成を行い,光学的性質を研究した.CDスペクトルを解釈するために,スペクトルを理論計算したところ,時間依存密度汎関数(TDDFT)法が良好に実測データを再現することが明らかにされた.また,X線解析によって,3,3'-ジカルボン酸エステルの絶対立体化学を(M)-(-),(P)-(+)と決定することができた. キラル軸をもつ9,9'-ビアントリルの関連化合物もいくつか合成し,構造やダイナクミスの研究を行った.ビ(9'-アントリル)エチンの構造に嵩高い置換基を導入し,アセチレン軸の回転を束縛することに成功した.また,立体的に込み入ったジフェニルアセチレン型の化合物も合成し,分子の構造の特徴を解明した.一方,1,1'-ビ-2-ナフトールにおいて,ゲスト分子DMFの包接化と除去に伴う,キラルスイッチングの現象がCDスペクトルにより追跡された.
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