金属蛋白質の機能発現において金属イオンの取り込みは翻訳後修飾における最も重要なステップである。近年、ターゲット蛋白質へと銅イオンを挿入するCopper-chaperonのX線結晶構造解析がなされるなど、金属イオンの取り込み及び放出のメカニズムが研究されつつあるが、反応機構について検討された例はない。本研究では、ブルー銅蛋白質シュウドアズリンへの金属イオン取り込み及び放出過程に関する知見を得るため、種々の金属イオンで置換した金属置換シュウドアズリン及びアポシュウドアズリン(Apo-PAz)の構造について235nm励起の紫外共鳴ラマンスペクトルによって検討した。Apo-PAzの紫外共鳴ラマンスペクトルは酸性条件下において、1408cm^<-1>にヒスチジンイミダゾリウムに由来するラマンバンドを与え、1468cm^<-1>のプロリン由来のラマンバンドに特徴的な変化が認められた。このラマンバンドの変化は、ホロシュウドアズリンでは認められないため、中心金属イオンの欠除によって蛋白質構造がフレキシブルになり、プロトン化による構造変化を起こしやすくなったことを反映している。Zn(II)-PAzおよびCd(II)-PAzの紫外共鳴ラマンスペクトルは、中性付近において亜鉛イオンに結合したヒスチジンイミダゾールに由来するラマンバンドを1388cm^<-1>にカドミウムイオンに結合したヒスチジンイミダゾールに由来するラマンバンドを1384cm^<-1>に与えた。これらのラマンバンドは酸性条件下では消滅し、1408cm^<-1>にヒスチジンイミダゾリウムに由来するラマンバンドが認められると同時にプロリン由来のラマンバンドが、Apo-PAzのラマンバンドと同様の変化を示すことが認められた。しかし、ホロシュウドアズリンではそのような変化は一切認められなかったことより、銅イオンは極めて特異的に結合しているものと考えられる。
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