シュウドアズリンのHis81近傍にはMet16残基が存在し、側鎖間に相互作用があるような立体構造配置となっている。そこで、シュウドアズリンのMet 16をフェニルアラニンに置換したアミノ酸置換体(M16F)を作製し、その構造について、244nm励起による紫外共鳴ラマンスペクトルの検討を行ったところ、M16FのHis81のラマンバンドがwild tyeシュウドアズリン(wtPAz)中のHis81よりも高波数側に見出された。このことはM16F変異の導入によってフェニルアラニンのベンゼン環とHis81の間に相互作用が生じて、ラマンバンドが高波数側にシフトしたものと考えられる。このことはヒスチジンイミダゾール上の電子密度が減少し、銅イオンとの結合が強くなっていることを示唆するものである。核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定結果、明らかにHis81のイミダゾール基は高磁場側へとシフトしており、近傍に導入したPhe16残幕との相互作用による環電流効果による高磁場シフトであると解釈される。常磁性のNMRスペクトルにおいてMet86のメチル基のシグナルが高磁場側にシフトしており、配位環境がよりアキシャル対象の環境になっていることが明らかになった。これは電子常磁性共鳴スペクトルの結果とも一致した。また、自己交換電子移動反応速度はwtPAzよりも速くなっていることより、新たな相互作用の導入によって電子移動における再配列エネルギーが小さくなったものと考えられる。またM16Fの酸化還元電位はwtPAzよりも70mV高いことが見出され、His81のイミダゾール環とPhe16のベンゼン環および銅イオンとの相互作用の結果を反映していることが明らかとなった。蛋白質が金属イオンを認識し、保持するためにはいわゆる第2配位圏における弱い相互作用も重要な鍵となっていることが示唆された。
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