研究概要 |
天然に存在する生体系や人工的に合成された大きな分子系では、反応の中心部分から離れたところにも系の構成要素として、あるいは格子欠陥のような存在として、不対電子が多々存在する。この"離れた不対電子"は系中で起こるエネルギー移動、電子移動をはじめとする様々な物理、化学過程に影響を及ぼす。この不対電子種を変えることにより、系のダイナミクスはどのように制御されるのか、金属錯体超分子系を用いて系統的な実験を示し、不対電子とのlong-range相互作用によって反応をコントロールするための基礎的概念を確立することを目的とした。 一連の銅(II)ポルフィリン-フリーベース(FB)ポルフィリン連結系におけるFB部の項間交差速度の加速について(1)架橋子依存性(2)終端クロモフォアのHOMO依存性の2点から検討し、不対電子とFB部π電子とのlong-range相互作用と項間交差速度との関係を明らかにした。その結果、2つのクロモフォア間の中心間距離とは相関がなく、2つクロモフォアをつなぐ経路との間に指数関数の関係があること、また、架橋部位のHOMO電子密度が高い場合に相互作用が大きくなることを系統的な実験から証明した。すなわち、不対電子と反応部位をつなぐ経路の長さや不対電子周りのクロモフォアHOMOを変えることによって反応を制御できることを示した。 次に直線型の常磁性ポルフィリンとFBポルフィリンを連結したダイマーをもちいて(架橋子=p-phenyl, p-biphenyl)、不対電子種を変えた場合のFBの緩和過程について調べた。不対電子種としてCu, VOおよび亜鉛にラジカルが配位した系を用いた。架橋子がp-phenylとp-biphenylの場合では反応速度の順序がVO>Cu>Zn-RとCu>VO>Zn-Rと反対になって単純には不対電子種の種類だけでは決まらないように見える。しかし、不対電子種と不対電子周りのクロモフォアπ電子間との相互作用をりん光寿命によって評価した結果、系全体の反応速度はこの不対電子種と隣接π電子との相互作用にほぼ比例していることが明らかとなった。すなわち、系全体のlong-range相互作用および反応速度は不対電子種とその不対電子種周りの相互作用によって支配されることが明らかとなった。 以上より、超分子系におけるlong-range相互作用による光ダイナミクスは(1)経路の長さ(2)終端HOMO(3)不対電子種と隣接π電子間相互作用によって制御できることが示された。
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