本研究は、サブナノからナノメートルサイズの剛体と近似できるポリ酸イオンをビルディングブロック(基本的構築単位)として、その立体的特性を生かした多孔性の物質を開発する合理的合成法の探求を行なうことを目的としている。本年度行なった研究の主なものには以下の二つがあげられる。 1.多孔性物質合成のビルディングブロックとして用いるポリ酸イオンとして、岩塩型構造と一致する金属・酸素原子骨格構造を有するポリアニオン[W_60_<19>]^<2->と[V_<10>O_<28>]^<6->およびそのモリブデン置換体[M_<02>V_8O_<26>]^<4->などを用いて、有機カチオン及び無機金属カチオンを用いた系統的な結晶化及びその構造解析を行なった。その結果、アニオンのサイズと電荷のバランスの関係から、多孔性物質の合成には[V_<10>O_<28>]^<6->イオンをビルディングブロックとして用いることが適切であることが明らかとなった。 2.ポリ酸イオンめ中でも、タングステンを骨格原子として含むものは実験室で通常用いられるMoKα線やCuKα線に対する吸収効果が大きく、単結晶X線回折実験を行なった場合に得られる回折強度に対する系統誤差が非常に大きくなり、結晶構造解析の結果得られる構造パラメータの確度が低下する。その問題を根本的に解決するためにわれわれは吸収効果の少ない短波長のX線を用いた構造解析を遂行する装置を大型放射光施設SPring-8に設置したが、それを用いて[W_6O_<19>]^<2->のテトラブチルアンモニウム塩の構造解析を行ない、所期の効果が得られることを確認した。これはポリ酸の有機塩をシンクロトロン放射光を用いて解析した世界初の例であり、その結果をChemistry Letters誌に発表した。
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