本研究では[H_nV_<10>O_<28>]^<(6-n)->イオンと有機アンモニウムイオンとを用いて、有機小分子を取り込むことのできる細孔を有する化合物を合成し、その結晶構造解析により有機小分子を取り込むドライビングフォースとなる水素結合の詳細について明らかにした。また、より小さなポリアニオン[V_4O_<12>]^<4->を用いて、その分子表面に水分子を担持させたポリアニオン-水複合体の結晶構造解析にも成功し、これが金属酸化物表面に担持させた水分子のモデル化合物となることを示した。さらにポリアニオン結晶化に用いる陽イオンを低酸化状態にある遷移金属イオンに広げ、[V_<10>O_<28>]^<6->イオンをCu^<2+>イオンで結晶化したところ、多孔性物質を合成するという所期の目的は果たせなかったものの、[V_<10>O_<28>]^<6->イオンがCu^<2+>イオンまたはNa^+イオンで直線状に連結された構造を見出すことが出来た。同様に[PW_<11>O_<39>]^<7->イオンをNa^+イオンとグアニジニウムイオンで結晶化させた場合に[PW_<11>O_<39>]^<7->イオンがNa^+イオンで連結された構造が見出された。これらの構造は(光)酸化還元能などミクロな特性を持つポリアニオンを整列させてマクロな物性を発現させるための有用な方法として発展する可能性を秘めている。 これらの研究と平行して、これらポリアニオン結晶の高精度構造解析を行なうために、大型放射光施設(SPring-8)にて単結晶構造解析装置の設置及び高度化を行なってきた。その成果としてタングステンを骨格原子とするポリアニオンの構造が従来の方法と比較して3〜4倍の精度で解析することが可能となり、上述の[PW_<11>O_<39>]^<7->イオンがNa^+イオンで連結された構造において、Na^+イオンとの相互作用により[PW_<11>O_<39>]^<7->イオンの構造にゆがみが生じることが明らかとなった。
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