本研究では、有機遷移金属錯体の共存配位子として広く用いられるリン配位子に多核化の機能を持たせておけば、多様な有機遷移金属錯体を多核化することができると考えた。そこで、リン-炭素結合が開裂しやすいリン架橋[1]フェロセノファン配位子を持つ有機金属錯体を合成し、これらの錯体のポリマー化法、および、リン-炭素結合への金属の挿入反応を利用した異核複核錯体の合成法を確立することを目的とする。 本年度は、未だその合成例すら少ない大環状多座骨格をもつホスフィン配位子を効率的に合成することを目指した。その結果、リン架橋[1]フェロセノファンをTHF-中で光照射により重合させると大環状骨格をもつdimerおよびtrimerがそれぞれ6%づつ含まれていることを見いだした。この低収率を改善することを目的として、まず環化反応の機構を明らかにすることに取り組んだ。 この環化反応は配位性の溶媒中でのみ進行することから、より配位性の強いものを共存させれば反応中間体を細くすることが出来るのではないかとかんがえた。そこで、P(OMe)_3を共存させて光反応を行った結果、鉄にη5配位している2つのCp環のうちの1つがη1へとring slippageを起こすことを見出した。従って、当初予想していた架橋リン-炭素結合が開裂するのではなく、Cp環の1つが鉄から外れることで開環反応が進行することが強く示唆された。 本研究で得られた複数のフェロセンを骨格にもつ大環状リン配位子は、期待どおりキレートとして金属に配位出来ることを確認した。
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