本研究では、有機遷移金属錯体の共存配位子として広く用いられるリン配位子に多核化の機能を持たせておけば、多様な有機遷移金属錯体を多核化することができると考えた。そこで、リン-炭素結合が開裂しやすいリン架橋[1]フェロセノファン配位子(1)を持つ有機金属錯体を合成し、これらの錯体のポリマー化法、および、リン-炭素結合への金属の挿入反応を利用した異核複核錯体の合成法を確立することを目的とする。 1をTHF中で光照射するとポリマー化が起こりポリフェロセン誘導体が得られること見出した。さらに、生成物中には大環状骨格をもつdimerおよびtrimerがそれぞれ6%づつ含まれていることを見いだした。この低収率を改善することを目的として、まず環化反応の機構を明らかにすることに取り組んだ。その結果、この開環反応の機構は、鉄にη^5配位している2つのCp環のうちの1つがη^1へとring slippageを起こした錯体(2)を経て進行することを見出した。この結果より、1のオリゴマー化は、1)光反応によるring slippage型の2の生成、2)2のη^1-Cpに対してもう1分子の2の鉄中心が攻撃、3)フェロセンユニットの再生、4)2番目の鉄上からのη^1-Cpの脱離の4ステップが繰り返されることで進行すると結論した。 一方、1を配位子としてもつW(CO)_5または、CpMn(CO)_2に0価白金錯体を反応させると1のCp-P結合に白金の酸化付加的挿入が起こり多核錯体が生成した。この際、白金上の配位子をバルキーなPPh_3にすると多核化の際に配位子が脱離し、白金上に空いた配位座をもつ錯体が生成することを見いだした。この配位座は、求電子性が強く、タングステン上に捕捉されたPPh_3のP-Ph結合が、この白金上の反応サイトで切断されることを見出した。
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