研究概要 |
最終年度である本年はtriphos (1,1,1-tris(diphonylphosphinomethyl)ethane)やbinap (1,1'-bis(diphenylphosphino)-2,2'-binaphthyl)を含む錯体の光化学についてさらに詳細な解析を行った. 錯体の合成と同定 [M(triphos)(PPh_3)],[M(binap)_2](M=Pt,Pd)錯体の合成を行い,元素分析やNMRによって同定した.binap錯体の合成については,原料錯体の選択,還元剤の量の最適化などによって容易に高純度の試料を得る方法を新たに開発した. 錯体の発光特性の解析 [Pd(triphos)(PPh_3)]錯体の溶液中での発光減衰曲線は,2項の指数関数の和で表せることが以前から判明していたが,このことについて詳細な解析を行った結果,励起状態でのホスフィンの解離平衡があることを示すことができた.また,[Pt(binap)_2]は発光の量子効率が12%,対応するPd錯体はその2倍以上と錯体としては非常に効率よい発光を示すことも判明した. 錯体の光化学反応 特に[Pd(triphos)(PPh_3)]や[Pd(binap)_2]については,有機塩化物との光化学反応を研究している過程で,実はベンゼンやトルエンといった芳香族炭化水素とも光化学反応を起こすことが判明した.一部の系においては光照射の後暗所に放置することで元に戻るというフォトクロミックな現象も見いだした.この反応機構は現時点では不明であるが,昨年以前に研究していた有機塩化物との光化学反応の初期過程と関連していると思われ今後の興味深い検討課題を与えた.[Pd(binap)_2]については各種の有機塩化物との光化学反応を吸収スペクトル変化から検討し,特定の有機塩化物の場合は,興味深いスペクトルシフトを観察した.また,[Pd(triphos)(PPh_3)]を触媒として用いて,クロロベンゼンなど芳香族塩化物の光化学反応を検討したところ,カリウムメトキシドを添加することによって,ターンオーバー数は少ないもののやはり触媒的に脱ハロゲン反応が進行することを確認した.
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