本年度は5点について実験・研究を行い、それぞれ相応する結果を得た。内容は以下のとおりである。 1)加水分解酵素活性中心のコンセンサス配列(His-Glu-X2-His-X2-Gly-X2-His)を中心に ○His-Glu-Thr-Ile-His-OMe ○Boc-His-Glu-Thr-Ile-His-OMe ○Ala-His-Glu-Ile-Thr-His-Ala-Val ○Ala-His-Glu-Ile-Thr-His-Ala-Val-Gly-Met-Glu-His-Pro ○Ala-His-Glu-Lys-Ala-His-Ser-Arg-Gly-Leu-Lys-His-Tyr など、5残基から13残基へとペプチド鎖を次第に延長させながら、疎水性や親水性など性格の異なるペプチドをシステマティックに5種類合成した。 2)これらのペプチドのプロトンの解離平衡定数(pKa)をNMRを用いて明らかにした。一方、ポテンショメトリー法を用いてプロトンの解離平衡定数(pKa)を求め前者と比較した。この結果ポテンショメトリー法は正確さに劣るがほぼ近いpKaを与えることが分かった。このことをもとに、ペプチドと亜鉛イオンの錯体形成条件をポテンショメトリー法を用いて検討し、NMRによる滴定との比較を行った。又、亜鉛上の水分子のプロトンの解離平衡定数(pKa)を求めた。 3)亜鉛ペプチド錯体の加水分解活性の速度論的検討を行い、活性に及ぼすpH効果を検討した。その結果加水分解には1水酸化物と2水酸化物の両者が働くらしいことが分かった。 4)これとは別に、コバルトを中心金属イオンとして上記ペプチドとの錯形成を分光法によって検討し、活性に及ぼすpH効果を検討した。その結果、コバルト(III)が13残基以上のペプチドに対して、恐らくμ-hidroxo-μ-peroxo二核錯体と思われる化学種を形成し、加水分解活性と同時に、酸化反応活性を示すことを見出した。このことは、短い配列のコンセンサスペプチドは酸化反応と加水分解反応の両者にたいして未分化な状態にあるという進化論的に興味深い仮説を引き出すことになった。 5)13残基ペプチドが水溶液中で形成するコバルト(III)錯体が複核構造を有することをXAFS法によって検討し、確認した。
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