研究概要 |
平成14年度の交付申請書に従って、いくつかの銀(I)錯体、金(I)錯体および関連する金属錯体を合成した。以下のような新しい知見成果を得た。 (1)ラセミ体の2-メルカプトプロピオン酸(2-H_2mpa)とトリフェニルホスフィン(PPh_3)配位子による銀(I)錯体[H_4Ag_8(2-mpa)_6(PPh_3)_6]・EtOHを合成し、X線構造解析を行った。それは銀(I)の八核クラスターであり、6個のAg(μ_3-S)_2Pユニットから構成される車輪と中央にAg-Ag相互作用をもつ2個のAg(μ_3-S)_3ユニットからなる車軸をもっていた。 (2)対応する金(I)錯体として、ラセミ体の2-メルカプトプロピオン酸(2-H_2mpa)とPPh_3配位子による金(I)錯体[Au(2-Hmpa)(PPh_3)]を合成し、X線構造解析を行った。この化合物はAuSPコアの直線2配位錯体でカルボキシル基は配位に関与していなかった。固体状態でR-体錯体とS-体錯体の二つのカルボキシル基間の水素結合による二量体(meso-体)を形成していた。 (3)関連する金(I)錯体として6-メルカプトニコチン酸(6-H_2mna)とPPh_3配位子による[Au(6-Hmna)(PPh_3)]を合成し、X線構造解析を行った。この錯体もAuSPコアの直線2配位錯体であるが、固体状態ではカルボキシル基プロトンとピリジン環窒素間の水素結合およびPPh_3配位子のフェニル基の分子間でのπ-πスタッキングによる超分子構造をとっていた。 (4)PPh_3配位子を含む直線2配位の金(I)錯体はグラム陽性菌に対する選択的な抗菌活性を示すものが多い。それは、それらの金(I)錯体と脂肪族チオール(D-ペニシラミン、2-メルカプトプロピオン酸など)との配位子交換性と密接に関係していた。すなわち配位子交換できる錯体は抗菌性を示し、配位子交換できない錯体は抗菌性を示さない。 (5)関連する研究として、ヒノキチオール配位子によるAg(I),Cu(II),Co(II),Al(III)など数多くの金属錯体を合成し、X線構造解析に基づいた構造分類を行った。抗菌性に関する構造活性相関を考察した。 (6)チオセミカルバゾン三座および五座配位子による亜鉛錯体、ビスマス錯体などを数多く合成し、抗菌性に関する構造活性相関を考察した。
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