補助金交付期間に行った研究で得られた新たな知見・成果は以下の通りである。 1.グリシン、アスパラギン酸、アスパラギンなどのアミノ酸配位子による水溶性(I)錯体を合成し、固体状態および溶液中の構造の違いを考察した。銀原子の配位様式からアミノ酸銀錯体は4つのタイプに分類された。いずれも広いスペクトルの優れた抗菌抗カビ活性を示した。 2.AuSPコアおよびAuNPコアの直線2配位金(I)-トリフェニルホスフィン錯体のグラム陽性菌に対する選択的な抗菌活性は脂肪族チオール(D-ペニシラミン、2-メルカプトプロピオン酸など)との配位子交換性に基づいて説明された。 3.2-メルカプトニコチン酸配位子による水溶性銀(I)錯体は"シクロヘキサンいす型"骨格のAg_6クラスターであった。2-メルカプトプロピオン酸とトリフェニルホスフィン(PPh_3)配位子による銀(I)錯体は車輪型Ag_8クラスターであり、対応する金(I)錯体はAuSPコアの直線2配位錯体であり、二つのカルボキシル基間の水素結合による二量体を形成していた。一方、6-メルカプトニコチン酸とPPh_3配位子による金(I)錯体もAuSPコアの直線2配位錯体であったが、カルボキシル基とピリジン環窒素間の水素結合およびPPh_3配位子のフェニル基の分子間でのπ-πスタッキングなどによる超分子構造をとっていた。 4.チオセミカルバゾン多座配位子やヒノキオール配位子による金属錯体(亜鉛(II)、ニッケル(II)、銀(I)、アルミニウム(III)、コバルト(II)、ビスマス(III)など)の合成、構造解析を行い、抗菌活性を調べた。これらの錯体による抗菌作用は分子構造よりも中心金属に強く依存していた。同一金属で類似のコア構造を有するものは類似の抗菌スペクトルを示した。
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