研究概要 |
非水溶媒系で、有機金属化学のノウハウを積極的に取り入れて、分子性酸化物の合成無機化学的な研究を進める事で、この手法の有用性を明らかにした。これまでの分子性酸化物の合成は、「何が出て来るか判らない」と言う、凡そ反応設計が成り立ち様の無い物であった。しかし本研究では、殆ど化学量論のみに基づいた、一見単純過ぎる反応設計が、充分機能する事が明らかになった。特に[Se_xV_<4-x>O_<12-x>]^<(4-x)->(x=1,2)の合成と単離の成功は、海外の研究者を驚かす物であった。[Se_xV_<4-x>O_<12-x>]^<(4-x)->(x=1,2)の合成と単離は、分子性酸化物生成時の酸化還元反応に、速度論的な制御を利かせた物としても意義深い。x=0の化合物、詰り[V_4O_<12>]^<4->では、分子性酸化物の表面に水分子が担持されている事も見出した。その担持構造や、脱着挙動は、V_2O_5上に吸着した水分子のそれと酷似している。分子性酸化物と通常の固体の酸化物とが類似した化学を持つ事を示す結果として興味深い。又、担持された水分子を含めた[V_4O_<12>(H_2O)_2]^<4->の構造は、[V_4O_<12>]^<4->に有機金属を担持した化合物とほぼ同一であった。この結果は、分子性酸化物と水分子の様な小分子との反応化学の展開に期待を持たせる物である。 本研究では又、無機イオンと有機金属イオンとを反応させる事により、白金の陽イオン性分子性酸化物の単離に初めて成功した。ここで得られた[{Me_3P)_2Pt}_3Pt(OH)_6]^<4+>には、更なる陽イオン性分子性酸化物の合成における出発原料としての期待も持てる。
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