研究概要 |
発光オワンクラゲやウミホタルの生物発光基質はイミダゾピラジノン誘導体であり、基質のπ電子系の性質が発光特性やタンパク質との超分子形成に密接に関わっているため、π電子系の基本物性の確立は重要である。我々はイミダゾピラジノ環が有する構造的、物性的特徴を確立し、反芳香族性と生物・化学発光反応機構との相関、さらにはソルバトクロミズム特性や水素結合受容性等の特異な物性との関連を明らかにすることを目的として研究を行った。まず、環構造の互変異性化を抑えるため、母体化合物に加え、N7位とO10位をアルキル化した誘導体を比較対照として合成した。これらの誘導体を用いて各種溶媒中での紫外可視吸収スペタルを測定した結果、イミダゾピラジノン誘導体の長波長吸収性は10位の酸素原子を含む分極したπ電子系構造に起因することが明らかとなった。また、顕著なソルバトクロミズム特性が酸素原子部位での溶媒分子との水素結合形成に起因することがわかった、酸と塩基の添加により、プロトン化位置によるπ電子系の変化およびアニオンのπ電子系特性も明らかとなった。還のπ電子系の特徴を保護した7-メチル誘導体については、単結晶作製に成功しX線結晶構造解析を行った。この結果、イミダゾピラジノン還は平面構造を取り特徴的な結合交替を示した。また結晶内ではイミダゾピラジノン環が他同士がπスタックしたカラム構造を作り、分子間の双極子間相互作用が結晶構造形成に働くことがわかった。以上の測定結果を半経験的分子軌道計算結果と比較した結果、いずれの構造的特徴も8π電子系反芳香族1, 4-ジヒドロピラジン環を含む特異な環構造に起因することがわかった。さらに反芳香族性に由来する常磁性環電流効果や電子受容体との電荷移動錯体形成ならびにπ電子系の構造的特徴と発光反応性との相関について研究を続けている。
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